当社独自のQuick-Tissue™技術とは

分化誘導の課題を解決し、ヒトiPS細胞を様々な細胞に短期間で分化させることで、効率的にヒトの生物学や疾病をモデル化することが可能となり、さまざまなアプリケーションへの応用が広がります。

ヒトiPS細胞は、ほぼすべての種類の細胞に変化することができる驚くべき能力を持っています。ヒト体内から少量の体性幹細胞を集める代わりに、iPS細胞から神経細胞、骨格筋細胞、肝細胞などに分化させることで、これまで入手不可能であったヒト細胞の研究が可能になりました。また遺伝的に同一なヒト細胞を無制限に供給することができるので、ハイスループットスクリーニングや細胞ベースの治療法の開発加速など、医生物学の革命的発展の推進役として期待されています。

このように、ヒトiPS細胞は創薬、細胞治療、再生医療の革新的なツールですが、一方でiPS細胞の分化プロセスは技術的に難しく、目的の細胞種への分化を安定的に行うことが大きな課題となっていました。

Quick-Tissue™技術とは

当社が独自に開発したQuick-Tissue™技術は転写因子をベースにした高速・高効率の分化誘導技術です。Quick-Tissue™技術を用いることで、ヒトiPS細胞から分化細胞や組織をわずか1~2週間で作製することができます。必要な試薬はQuick-Tissue™キットに含まれており、操作は簡単で、特別な手技を習得する必要はありません。分化誘導を初めて行う研究室でもすぐに活用していただける技術です。

Quick-Tissue™技術では、転写因子をmRNAまたはセンダイウイルスでiPS細胞に導入します。いずれもゲノムへの挿入は起こらないので、細胞の生理的機能を維持したまま目的とする組織や細胞を確実に作製することができます。

Quick-Tissue™技術確立への歩み

Quick-Tissue™技術は、当社の創業者および最高科学責任者である洪実(M.D.、Ph.D.)が、米国の国立老化研究所(National Institute on Aging、1998年~2011年)と慶應義塾大学医学部(2012年~2022年)で行ってきた20年以上にわたる研究に基づいています。

そのアプローチは非常にシンプルで、特定の転写因子を適切な時期に適切な培地でiPS細胞/ES細胞に導入し、目的の細胞タイプへの分化を促すというものです。

まず、米国国立老化研究所(National Institute on Aging)において、マウスES細胞を用いた転写因子ベースのiPS細胞分化誘導の原理が確立されました。また、多数のマウスES細胞株と遺伝子発現プロファイルを作成し、これらはCoriell Cell Repositoryを通じて研究コミュニティに提供されており、現在も広く利用されています。

慶應義塾大学の研究では、この研究をヒトES細胞やiPS細胞にまで拡大しました。そして、多くの蓄積された経験をもとに、Quick-Tissue™技術では、最適な転写因子を最適なタイミングで導入し、最適な培地を提供しています。

当社はこれらの技術について、慶應義塾大学から独占的にライセンスを受けています。

アプリケーション

iPS細胞由来分化細胞は、3Dバイオプリンティング、毒性・薬剤スクリーニング、精密医療(個別化医療)、組織チップ、疾患モデル、移植治療など、ライフサイエンスのさまざまな分野に応用できる非常に有用な技術です。

3D Bioprinting

バイオエンジニアリングの分野で急速に成長している3Dバイオプリンティングは、細胞を複雑な3次元組織に「プリント」することで、臓器移植の新たな形として期待されています。Elixirgen ScientificのQuick-Tissue™をベースとした細胞とキットは他のどの技術よりも高速で簡単なワークフローを提供するため、3Dバイオプリンティングに理想的なキットです。当社の技術は、現在3Dバイオプリンティングで最も広く使用されている技術の1つである、足場上にプリントされた幹細胞の分化も可能にします。します。

High-throughput Compound Screening

Elixirgen ScientificのiPS細胞分化技術では、実質的に無制限に同一の機能性を維持した細胞を作製することができるため、不死化した細胞株よりも均質で、再現性の高いハイスループットスクリーニング(HTS)を可能にし、また初代細胞よりも入手が容易で拡張性に優れています。さらに、当社のワークフローは自動化プラットフォームにも対応しており、Quick-Tissue™シリーズは効率的なHTSオペレーションに最適です。

Precision Medicine, Cell-based Therapies

細胞を用いた治療法がより広く普及するためには、カスタムメイドの自家細胞を生産するコストを削減する必要があります。Elixirgen Scientificのキットは、患者特異的のiPS細胞を高速かつ一貫性のある効率的な方法で目的の細胞タイプに分化させることで、これらの研究を加速させます。

Tissue Chips

「組織チップ(Tissue Chips)」や「臓器チップ(organs-on-chips)」は、動物実験よりも人道的で生理学的に適切な方法で薬剤候補の安全性や有効性を試験するために開発されている技術です。Elixirgen ScientificのQuick-Tissue™シリーズのキットは、チップ上で直接行うことができる迅速かつ能率的な分化のワークフローにより、このアプリケーションにとって最適な選択肢となりえます。

Research Models

従来、研究者は、基礎研究、トランスレーショナルリサーチ、応用研究にマウスなどの非ヒト細胞を使用してきました。これは、適切なヒト細胞株がない、あるいはヒトから初代細胞を得ることができないためです。しかし、ヒトES細胞やiPS細胞の登場により、これらの多能性幹細胞は基本的に人体のあらゆる種類の細胞に分化できることから、この状況が大きく変わってきています。Quick-Tissue™シリーズのキットを用いれば、どのラボでもヒトiPS細胞からヒトの生物学や疾病に関する生理学的により適切なモデルを迅速かつ容易に作製することができるようになります。

Transplantation

再生医療では、ヒトES細胞やiPS細胞を目的の細胞に分化させ、その細胞を必要とする患者に移植することが重要なパラダイムの一つとなっています。例えば、筋ジストロフィーの骨格筋、パーキンソン病のドーパミン神経細胞、糖尿病の膵臓β細胞、心不全や心筋梗塞の心筋細胞などが挙げられます。Quick-Tissue™技術は、ヒトES細胞やiPS細胞から目的の細胞タイプを高速に再現性高く、均質に分化させることで、これらのアプローチの開発を可能にしています。

関連文献

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